ここまでの記事で、変動金利と固定金利の差額、そして繰り上げ返済と投資の性質を確認してきた。今回は本題として、「変動金利で借り、固定との毎月の返済差額(当初 約4.6万円/月)をそのままTOPIXへ積み立てる」という戦略を、5つの経路でシミュレーションする。金利は前々回の記事のシナリオを、運用リターンは複数パターンを組み合わせた。
5つのシミュレーション結果
| シナリオ | 金利経路 | 運用リターン経路 | 累計拠出額 | 35年後評価額 |
|---|---|---|---|---|
| 順調ケース | 緩やかな正常化 | 年6%均一 | 1,578万円 | 5,462万円 |
| 参考:日銀想定路線 | 中立2%目標 | 年6%均一 | 1,008万円 | 3,655万円 |
| 失敗1:長期停滞型 | 中立2%目標 | 前半15年ほぼ0%→後半20年7% | 1,008万円 | 3,002万円 |
| 失敗2:終盤暴落型 | 緩やかな正常化 | 33年目まで年6%→最後2年-35%,-10% | 1,578万円 | 2,868万円 |
| 失敗3(最悪複合) | 急速利上げ | 20年低迷(年-1%)→15年年3% | 339万円 | 449万円 |
3つの失敗ケースが示すもの
失敗1:長期停滞型——「いつ始めたか」で結果が変わる
失敗1は「参考:日銀想定路線」と金利経路・拠出額はまったく同じで、運用リターンの経路だけを変えている。投資を始めた時期が「失われた期間」の入口に当たっただけで、35年後の評価額は3,655万円→3,002万円まで縮む。それでも元本割れはせず、拠出額の約3倍にはなる。
失敗2:終盤暴落型——シークエンスリスクの怖さ
失敗2は「順調ケース」と金利経路・拠出額・33年目までの運用リターンがすべて同じ。違いは最後の2年間に暴落が来るかどうかだけ。それだけで評価額は5,462万円→2,868万円と、ほぼ半分になる。
暴落が「来るかどうか」より「いつ来るか」のほうが結果を左右する、いわゆるシークエンスリスクの典型例だ。住宅ローンの完済間際や、資金を使う直前に暴落が来る可能性は常にある。
失敗3(最悪複合):金利急騰と市場低迷が重なる
失敗3は金利急騰で差額そのものが縮み(拠出額は339万円まで減少)、かつ運用も20年低迷するという複合ケース。それでも元本割れはしないが、運用益は110万円にとどまり、リスクを取った見返りとしては心もとない結果になる。このケースが「投資したのに、繰り上げ返済とほぼ変わらない結果に終わる」現実的な下限に近い。
実務上の注意点
- スポット(一括)ではなく積立で行う——今回のシミュレーションは差額を毎月積み立てる前提。一括で投じると高値づかみのリスクが大きくなるため、積立のほうがリスクは平準化される
- 生活防衛資金を確保する——生活費6ヶ月〜1年分を確保したうえで行うべきで、投資に全額を回すことは推奨しない
- 未払利息の水面下リスクを忘れない——5年ルール・125%ルールは月々の返済額急増を隠すだけで、水面下で未払利息が積み上がるリスクは残る。差額だけを見て安心しないこと
まとめ
「変動+差額投資」戦略は、順調な市場環境なら拠出額の3倍以上に育つ有力な選択肢だ。ただし失われた期間のような長期停滞、完済間際の暴落、金利急騰と市場低迷の複合という3つの失敗パターンでは、成果は大きく目減りする。どのケースでも元本割れはしないという点は安心材料だが、「リスクを取った見返りに見合うか」は失敗3のような複合ケースでは疑問が残る。
次回は、この失敗パターンの背景にある「金利上昇・物価・株価」の関係を掘り下げる。
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