手元に余裕資金ができたとき、「住宅ローンを繰り上げ返済すべきか、それとも投資に回すべきか」で悩む人は多い。この記事では、繰り上げ返済の本当の意味を整理したうえで、eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)のようなインデックスファンドに投資した場合と比較する。
繰り上げ返済の正体:住宅ローン金利と同じ利回りを、保証つきで得ること
繰り上げ返済の性質を整理すると、100万円を繰り上げ返済することは、数学的には「住宅ローン金利と同じ利回りを、無リスク・保証つきで得る」ことと同値になる。つまり変動金利0.90%で借りているなら、繰り上げ返済は「年0.90%(将来上がればそれ以上)の、元本保証された運用」をしているのと同じ意味を持つ。
住宅ローン控除を考えると、さらに有利になる
ここに住宅ローン控除(新築・省エネ性能等の条件を満たす場合、借入残高の0.7%を最長13年間、所得税等から控除)を重ねると話はさらに有利になる。概算では13年間で約299万円の控除が見込め、変動金利0.90%とほぼ相殺する水準にある。
つまり控除期間中の実質負担金利は年0.2%程度まで下がっているとみてよい。控除を受けている間に繰り上げ返済をすると、控除の対象になる借入残高そのものを減らしてしまうため、得られるはずだった控除の一部を自ら手放すことになる点は注意が必要だ。
100万円を35年間、それぞれで運用したらどうなるか
100万円を「繰り上げ返済に回した場合」と「TOPIXで運用した場合」で、35年後の到達額を比較した。繰り上げ返済の効果は、前回記事で使った金利シナリオごとに変わる(金利が高いシナリオほど、繰り上げ返済の節約効果は大きくなる)。
| 選択肢 | 35年後の到達額 |
|---|---|
| 繰り上げ返済:シナリオA(緩やかな正常化) | 168万円 |
| 繰り上げ返済:シナリオD(高止まり長期化) | 203万円 |
| 繰り上げ返済:シナリオB(日銀想定路線) | 210万円 |
| 繰り上げ返済:シナリオC(急速利上げ) | 277万円 |
| TOPIX投資:最悪ケース(20年低迷) | 127万円 |
| TOPIX投資:年6%想定(順調ケース) | 769万円 |
読み取れること
通常の市場環境(TOPIX年6%想定)なら、投資は繰り上げ返済を大きく上回る(769万円 vs 168〜277万円)。「繰り上げ返済するよりTOPIXをスポットで買った方が良い」という考え方は、方向性としては妥当だ。0.2〜0.9%という極めて低い保証利回りに資金を固定するより、期待リターン4〜7%とされるTOPIXに置くほうが期待値では上回る。
ただし「急速利上げ×市場20年低迷」という最悪の組み合わせでは、投資の到達額(127万円)が急速利上げシナリオでの繰り上げ返済の節約額(277万円)を下回る。つまり金利が上がる局面ほど、繰り上げ返済という「確実な選択肢」の相対的な価値も上がるという逆説的な関係がある。
ここで比較しているのは「保証された節約」と「不確実な運用リターン」であり、両者は本来リスクの質が異なる。この違いを意識せずに期待値だけで判断すると、最悪シナリオでの結果に驚くことになりかねない。
まとめ:繰り上げ返済を全否定しない
- 住宅ローン控除の期間中は、繰り上げ返済よりも控除を活かす方が有利になりやすい
- 控除終了後の余剰資金は、生活防衛資金を確保したうえで投資に回す選択肢が期待値では優位
- ただし金利が想定以上に上昇した場合は、繰り上げ返済の相対的な価値が上がることを踏まえておく
次回は、この「差額を投資に回す」戦略を、実際に35年間のシミュレーションで検証する。
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